チェンバロの果実 ♪

ピアノのようなかたちをした鍵盤楽器チェンバロ。にほんでいちばんやさしいチェンバロのあれこれ。

【2016/05/03 ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2016 #168@G409】

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La Folle Journee (ラ・フォル・ジュルネ) は2月の初め頃にフランスのナントで開催されるクラシックの音楽祭です。

10年くらい前から日本でも行われていて、Le Salon du Chocolat (ル・サロン・デュ・ショコラ) のようにフランスで開催してから数ヶ月遅れでやってきます。

サロン・デュ・ショコラは今や大人気のイベントとなり、あまりの混雑に足が遠のいてしまった一方で、ラ・フォル・ジュルネは何だか億劫で行ったことがありませんでした。

今年はチケットが販売される時期にパリ行きの準備をしていてフランス気分が高まっていたのか、いつの間にかチケットを買っていました。

ただ単に財布の紐が緩んでいただけかもしれません。 おかげで今はひもじいです。(>_<)

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ラ・フォル・ジュルネには毎年テーマがあります。

今年のテーマは

「la nature ナチュール - 自然と音楽」

です。最初の頃は作曲家や時代をテーマにしていたのですが、段々テーマが壮大になってきました。

ちなみに、ナントでの記念すべき第1回目のテーマはモーツァルト

“La Folle Journee” は

フィガロの結婚』の正式なタイトル

“La Folle Journee, ou le Mariage de Figaro”

から来ているので、納得ですね。

英訳しておくと、

“The Mad Day, or the Marriage of Figaro”

ラ・フォル・ジュルネはマッドな日ということになりますが、熱狂の日という素敵な訳がつきました。

さて、自然というテーマからはどんな曲をやるのかよくわかりませんが、毎年一つくらいはチェンバロメインの公演もあるので調べてみたら、3つありました。

公演番号168 5/3 チェンバロ:ピエール・アンタイ
公演番号268 5/4 チェンバロ:ピエール・アンタイ
公演番号367 5/5 チェンバロ:ピエール・アンタイ

3つあるけど、つまり日にちが選べるってことですね。

演奏曲目がラモーとF.クープランの曲から構成されていてオールフレンチなので、チェンバロよりもフランス語でクラヴサンと言った方がいいかもしれません。

それにしても、なぜラモーやクープラン?と思ったら、ふたりの曲には番号ではなくタイトルが付いているものがたくさんあるんですよね。 鳥とか花とかナチュールな曲を集めやすいわけです。

このイベントではたくさんのクラシックコンサートが行われ、東京国際フォーラムのコンサートホールを主な会場としています。それぞれの会場にはナチュールに川の名前が付されていました。

チェンバロの公演会場は3つとも『G409(セーヌ)』です。 パリの繁栄の原点とも言われる川の名前を持つ会場はどのホールかと調べてみると、

セーヌ(G409:153席) ガラス棟にある会議室。東京国際フォーラムならではの充実した設備が導入されており、イベントにもよく利用されています。

あ、『G(ガラス棟の)409(号会議室)』でしたか。

国際フォーラムの一面ガラス張りのところ、何があるのか気になっていましたが、会議室などがあるんですね。

気がついたらポチッとしていた公演は初日の5月3日のものです。18歳以上入場可となっています。

チェンバロはオトナになってから。

ではなく、22時開始の夜の公演です。

開場は21時45分とあったので、ホールE(パシフィック)の無料公演の観覧を適当に切り上げ、意気揚々とガラス棟のエレベーターを上がりました。 しかし、時間になっても409号室の扉は開かれません。

会議が長引いているのか、もしやチェンバロを狙った密室殺人が起きたのではと思ったのですが、ハープの公演が延びただけのようです。

開始予定時間も過ぎた頃にやっと会場に入ることができました。

もうガラスは見えません。普通の会議室です。 Atlier von Nagel の2段チェンバロと燭台のようなランプがセットされていました。

頑張ってランプは用意したけれど、明かり以外にこれと言ったデコレーションもなく、会議室感満載です。

この開始時間で遅れてくる人はいないでしょう。会場を見回すとほぼ満席です。着席は速やかに済み、程なく運営の方から遅延に対する簡単な謝罪と注意事項がありました。

「1曲は2〜3分程度の短めのものですが、演奏者の希望により1曲ごとに拍手をしないようにお願い致します。本日の公演は大きく3つのパートに区切られていますので拍手はそこでお願い致します」

こんな注意、初めて聞きました。

クラシックコンサートで曲が終わったと思って拍手したら、次の楽章が始まって顰蹙を買ったということがありますが、拍手くらい好きにさせてあげればと思う反面、積み上げた空気が壊れてしまうことも否めません。

会場の後ろの方からチェンバリストのピエール・アンタイさんが軽やかに入ってきます。

一旦チェンバロの椅子に座りましたが、すぐに演奏は始まりません。思ったより燭台ランプが暗かったのか、ちょっと調整が入りました。

さあ、始まりますよ。

22時から遅れること20分、この日最後にして最大の公演が幕を開けました。

早い曲とゆっくりの曲、明るい曲と暗い曲が絶妙に配置されています。

好きな曲っていうと、つい早い曲を選んでしまいがちですが、ゆっくりな曲も繊細でやわらかくて素敵です。また、ゆっくりした曲があると、早い曲の魅力も更に際立ちます。

日常ではBGMとして音楽を聴くことの方が多いかもしれませんが、こうして心を込めて組まれたプログラムを聴くことはとても優雅で贅沢な時間です。

* free programme (pdf)

チェンバロは強弱のつかない楽器ですが、これだけ素晴らしいとそんな次元はあっさり超えてしまいます。 煌めくような音に心は囚われ、あっという間に終わってしまいました。

アンコールはフレンチではなく、バッハのゴルトベルク変奏曲のアリアでした。

ラモーで高まった空気が、ゴルトベルクのしめやかでゆったりとしたものに変わり、今宵の音楽の宴は締めくくられました。

華やかで煌びやかで美しいクラヴサンの演奏にフランスの空気を感じましたが、そういえばここはガラス棟の会議室です。

凄いなぁ。会議室にいることどころか、日本にいることすら忘れていました。

そんな私の余韻とは裏腹に、急いで出て行く人たちのざわめきが広がります。

そうでした、開始が遅れたことも忘却の彼方に消え去っていました。

これだけ時間に正確な日本ですが、コンサートの開始時間だけはなぜか当てにならないですね。


merci de votre visite.
ecrit par coquemomo