憧れのフランス製二段チェンバロの仕様と値段
年が明けたばかりと思っていたのに、早いもので、もう2月になってしまいました。
今年2度目の更新ですが、前回は昨年のレッスンの話でしたので、今回が実質今年のファーストアーティクルです。
就任直後からスピード感たっぷりの小池百合子都知事を少しは見習っていきたいと思っていますが、根が怠惰なのでなかなか難しいです。
そんな私でも、年の初めには、1年の抱負を考えてみたりしていました。
発表会の曲を弾きこなすという現実的な目標から、いつかはバッハのイタリア協奏曲を弾いてみたいとか、しかも豪華絢爛なチェンバロで弾きたい、そしてそんな素敵な楽器が欲しい、というように空想は綿菓子のようにフワフワとふくらんでいきます。
そんな夢でも、やっぱりリアリティは大切です。 欲しい楽器と言って思い浮かぶのは、チェンバロ・フェスティバルで井岡さんと再会して久々に弾いたマーク・デュコルネのフランコ・フレミッシュです。
(注*夢を実現するための技術面での課題につきましては、ここでは触れないでおこうと思います。)
あの時に井岡さんが改めて色々教えてくれたので、仕様を纏めておこうかなと思います。
・・・もしや、買えってことでしょうか?
井岡さんは商売上手の なにわのあきんど ですから、あり得る話です。
さて、頂いた仕様はこちら。
フランコ・フレミッシュ二段鍵盤ハープシコード
(ルッカース1646、タスカン1780)
Franco-Flemish after Ruckers -Taskin, Antwerp 1646, rebuild by Taskin, Paris 1780
(Musee de la Cite de la Musique, Paris)
61鍵
2×8' 1×4' バフ
鍵盤可動A392-415-440
初めて見たときは何のこっちゃでしたので、ちょっと丁寧に見ていきたいと思います。
フランコ・フレミッシュはちょっと置いといて、わかりやすいところからいきましょう。
二段鍵盤は鍵盤が2段あるということで問題はないですね。
ハープシコードは英語でチェンバロのことです。 ちなみにチェンバロはドイツ語になります。
ルッカースのあたりも後回しにして、簡単そうなのは61鍵、そうです、鍵盤が61あるってことですね。
88鍵のピアノに比べると少ないですが、チェンバロで61は大型の楽器です。
この楽器は2段鍵盤なので、丁寧に書くと61鍵×2段、つまり122個の鍵盤がついているわけです。
勝ち負けじゃないけど、ピアノに勝ちましてよ。
音域はここには記載がありませんが、61鍵だと普通はFF〜f3です。
真ん中のドから3オクターブ上のファまで、下は真ん中のドから3オクターブ下のファまでです。
この高い方のファはモーツァルトが多用するキーで、そういう視点で見ると、当時の最高音はここなのだなということがわかります。
バッハをメインに弾くなら、上はレまであれば問題ないと思います。
ちなみに、デュオ・ローズが現在取り組んでいる連弾曲はこの高いファがないと話にならないくらいたくさん出てきます。 逆にファより上の音は一切出てきません。
次の 2×8' 1×4' は弦のことです。
8フィートの弦が2本、4フィートの弦が1本、1つの音に計3本の弦が張ってあります。
具体的には、上の段の鍵盤に8'が、下の段に8’と4'が張られていて、同時に3本鳴らすとかなり華やかになります。
下鍵盤の8'と上鍵盤の8'も少し音質が違います。上鍵盤の方が囁くような感じでその違いも魅力です。
さらにバフストップがついていますので、箏のような音色を奏でることもできます。
続いて、鍵盤可動A392-415-440、ピッチの話になります。この楽器では3つのピッチを使うことが出来るということです。
A415というのが、いわゆるバロックピッチです。古楽では通常A415で合わせるので、今より半音低い音になります。
つまり、ドって鳴らすとシ♭(フラット)に聞こえるわけです。 最初は気持ち悪かったけど慣れました。
でも、これだけだと現代の楽器と一緒に合わせることが出来ません。
そこで出てくるのがトランスポーズ機能です。 440と言うのはモダンピッチなので、ヴァイオリンやフルートと一緒に合わせるにはこれを選びます。
選ぶと言っても、440と書いてあるボタンを押せばいいというわけではありません。
鍵盤可動という文字の通り、鍵盤を横にずらして、半音低い弦を鳴らすという仕組みです。
手順としては、ダミーキーと言えばよいでしょうか、鍵盤の幅の木片を抜いて、鍵盤を横にずらして、空いた方にそれを入れます。
だから、440にトランスポーズ出来る楽器で415しか弾いていなければ、一番上の音の弦はずーっと出番がないってことです。 当然です。どの鍵盤を押しても鳴らないのですから。
もう1つの392は別名ヴェルサイユピッチ。 更に半音、鍵盤を横にずらします。 ここまでついてるとかなり贅沢ですね。
そう言えば一度も弾いたことがないですけれど、モダンピッチから1音低いとなると、かなり違和感を感じるように思います。
さあ、ここまで来たところで元に戻りましょう。
フランコ・フレミッシュでしたね。
フランコは、フランスのという意味で、
フレミッシュはフランドル地方またはそこで発達した芸術様式のことです。
フランドルは美術史などで触れたことがある人も多いかと思います。
ベルギー西部、オランダ南西部、フランス北部を支配していたフランドル伯の領地を指します。
ちなみにフランドルを英語読みするとフランダースになります。ワンっ。
フレミッシュは、チェンバロの歴史的にはイタリアの次に来る様式で、当然のようにアンチイタリアの位置付けとなります。
装飾もシンプルで減衰の早いイタリアンに対し、ラテン語の格言や花や鳥を描き芸術的装飾を凝らし伸びやかな音のフレミッシュ。この後、華やかなフレンチに時代は流れていきます。
さて、チェンバロはピアノが流行って一旦途絶えてしまうので、現在あるチェンバロは博物館にあるものを復元したものです。またはそこに別の楽器の要素を足したり、オリジナリティを加えたりすることもあります。
この楽器のオリジナルはというと、
(ルッカース1646、タスカン1780)
Franco-Flemish after Ruckers -Taskin, Antwerp 1646, rebuild by Taskin, Paris 1780
ルッカースがアントワープで1646年に作ったものを、タスカンが1780年にパリで改造したものってことです。
ルッカース一族はフレミッシュを代表する有名な工房で、パスカル・タスカンはフランス様式を代表するチェンバロ製作者の1人です。
これが曲だったら、ルッカース作曲、タスカン編曲といつたところでしょうか。
でも、このタスカンならではの装飾を考慮するなら、タスカンはアヴェマリアにおけるグノーに近いかもしれません。
Musee de la Cite de la Musique, Paris
オリジナルはパリのMusee de la musique (ミュゼ・ドゥ・ラ・ミュズィック)にある置いてあるんですね。
Musee de la musiqueなら、れいね先生のオススメで昨年の3月に行ってきました。
あれ、じゃあ、私はオリジナルの楽器を自分の目で見てきたってことではありませんか!
そう、見惚れてしまう楽器がたくさんでした。
歴史的価値の芸術品なので、普通の人が弾くことは出来ませんが、見てるだけでもかなり幸せです。
うっとり。
ちなみにオリジナルはこちらです。
たくさん撮ったとはいえ、知らずにキチンとカメラに収めた自分を褒めてあげたい。
しかもブログに使ってるんですよね。
私、この楽器と結ばれる運命にあるのではないかしら。
さて、最後に皆様お待ちかねのお値段の話。
「価格は変わってしまうので、目安として見ていただければと思います」
とは、オワゾリールハウスの井岡さんのメールに書き添えられていた注意書きです。
でも、なぜ金額が変わってしまうのでしょうか。 要因は大きく2つあります。
1.オワゾリールハウスが扱っているのはマーク・デュコルネの工房で作った楽器です。 デュコルネが値上げすれば、当然オワゾリールでの売価も上がります。
2. マークデュコルネはフランスのチェンバロ工房です。 通貨は当然ユーロになります。 つまり、為替の影響を受けるわけです。
自分仕様の楽器をオーダーする場合は、最新かそれに近いレートになります。
既に日本にある在庫を購入する場合は、レートの見直しをする必要はなくなりますが、それでも実際のレートと大きく乖離してくると見直しを行うこともあるそうです。
そのようなことで、幾らで買えますって言いづらいわけです。
だから、買うときにその時の値段を聞いてみてね☆〜(ゝ。∂)
〜おしまい〜
と、まあこれではここまで読んで下さった方に申し訳ありませんので、2016年7月時点でのざっくりとしたお値段は……
今回紹介した仕様でシンプルなモデルですと、600万円台半ばとのことでした。 それに消費税が加算されるので、実際に支払う金額は700万円近くになると思われます。
チェンバロフェスティバルで弾かせていただいたモデルは脚の形が特殊なので、この脚を選ぶことにより、百数十万円上がります。 1本数十万円の脚……ランウェイを堂々と歩くくらいなら朝飯前でやってくれそうです。
他にも装飾のオプションをつけていくと十万単位で価格が跳ね上がるので、オーダーする場合は悩みますね。 でも、段々値段の感覚が麻痺しそうで、家を建てるときに色々付けちゃうのと近いかもしれません。
比較的安価な二段チェンバロですと、以前書いた通り300万円くらいですから、この楽器はよい材料を使って素晴らしい製作家によって作られたものであるということがわかります。
異常な円高ユーロ安がなければ、凡そ値段は上方にしか修正されないので、早く買った方がよいのですが、夢で始まった今回の記事は、現実の厳しさを痛感したところで、幕引きとさせていただこうと思います。
merci de votre visite.
ecrit par coquemomo