チェンバロの果実 ♪

ピアノのようなかたちをした鍵盤楽器チェンバロ。にほんでいちばんやさしいチェンバロのあれこれ。

【2015/11/01 ジョワ・ド・ヴィーヴル@東京芸術劇場】〜オンド・マルトノの世界〜

geigeki

チェンバロの果実 ♪」特別編、オンド・マルトノ後編です。 前編は こちら→♪ です。

本日の会場は東京芸術劇場。 芸術劇場は池袋の西口にあります。 ラシーヌのある東口からは駅を越えていく感じになります。 駅の逆側に行くって知らないとちょっと難しい。

東京や新宿ならわかるのだけど、ここは頼りになるふたりについていきます。 今日は頼りっぱなしです。

16時半を過ぎて外は少し肌寒くなってきました。 コンサートの開場は17時、開演は17時半です。

池袋も久しぶりだけど芸術劇場はもっともっと久しぶり。 いつ以来だか全く記憶にありません。

中に入ると長いエスカレーターがあり、ガラス張りの大胆な広い空間使いに驚きました。 天井までの距離が奥行きの長さを超えると、越えた分だけ、空間を支配したような強い気分になれます。

「芸劇って、こんなに綺麗だったっけ?」

失礼な発言をしてみると、

「私もそう思ってたんです」

オンディーヌちゃんが答えてくれました。

「確か、改装したと思います。これならまた来たい感じがします」

コンサートホールに入る一歩手前の空間は気持ちを盛り上げるのにとても重要な役割を果たします。

私の記憶からは朧げにしか思い浮かばないものの、やっぱり生まれ変わった新しい空気を纏っています。

期待は益々高まります。

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今日のコンサートには、
ジョワ・ド・ヴィーブル    生きる喜び
という名前が付けられています。

ジョワ joie は喜び (英語のjoy) 、ヴィーブル vivre は生きる (英語ならlive) 。

日本語部分は、まんま訳ですね。

サブタイトルは、第1部が祈り、第2部は希望と愛。

オンド・マルトノが登場するのは第2部のみなので、今回は第2部のみの参加です。 でも、第2部の中でも途中休憩がある長丁場です。

「こけももさん、オンド・マルトノの『トゥーランガリーラ交響曲』は休憩のあとなので、休憩時間にセッティングすると思うんです。 だから、休憩時間になったら舞台の近くまで見に行きましょう!」

なるほど。そんなところまで気がつきませんでした。

そんなわけで、後半に力を取っておくつもりで、前半はのんびり楽しもうと思っていたのですが、その目論みは鮮やかに裏切られました。

ストラヴィンスキーの「火の鳥」が、衝撃的に良かったのです。

ストラヴィンスキーは20世紀前半に活躍したロシアの作曲家、 火の鳥はロシア民話を元に作られたバレエ作品です。

バレエのチケットを買おうと思って作品名をクリックすると、次に出てくるのは作曲家と振付家が誰かということ。 その後に、今回の公演の演出家や指揮者、そして、それぞれの公演のダンサーの情報が出てきます。

華やかで美しいバレエダンサーに目が行きがちだけれど、バレエ作品の根幹は作曲家と振付家です。

ストラヴィンスキーはバレエ・リュスの敏腕プロデューサーであるディアギレフにより才能を見いだされ、火の鳥の作曲を任されます。そして、振付家のフォーキンと試行錯誤を重ねて、火の鳥を書き上げました。

元々とても好きな曲ではあったのですが、フィギュアスケートでほぼ毎年誰かが使っていたのを見ていたせいか、よく聞く曲という印象になっていました。

最近の中では、ソチオリンピックの年の町田樹選手のプログラムがとても印象に残っています。 今シーズンはグレイシー・ゴールド選手が使ってますね。 グレイシーの艶やかさにとても合っていると思います。

バレエにせよフィギュアにせよ、音楽は大事だけど、主役はダンサーであり、選手です。

けれども、今日の主役は音楽。 元々、火の鳥はオーケストラですが、 本日はアールズ編曲の吹奏楽版全曲でした。

本格的な吹奏楽を聴いたのは、初めてだったかもしれません。

オーケストラは厚みのある重厚な弦楽器に華やかな管楽器が重なり合う世界です。 一方、ブラスバンドは一つ一つの音に迫力があり、割と違う音質が個性として重なり合います。

普通のスピーカーが2chかせいぜい5.1chだとしたら、楽器の種類の数だけチャンネルがあるような響きを感じます。 音があっちから来て、また別の音がそっちから来て。 これは、音が溶け合うオーケストラにはない魅力です。 ブラバン、凄いなあ。

魔王カスチェイが登場する頃には曲に釘付けになり、火の鳥が空高く舞うような昂揚感に包まれます。 そして、終幕まで一気に畳み掛けます。

火の鳥、すごい!

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「こけももさん、下、行きますよ」

そうでした、休憩だけど休んでるヒマはありません。

下りエスカレーターに乗りながらオンディーヌちゃんが言いました。 「今日はトゥーランガリーラを聴きに来たけど、前半も良かったので得した気分です」

本当に。

火の鳥ってつくづく名曲だったんだなぁ。

オンディーヌちゃんの読みどおり、舞台には無造作にオンド・マルトノのそれぞれが配置されるのを待っています。

あれが本体で、左側にティロワールが付いていて、残りはスピーカー。 プランシパルと銅鑼付きと弦付き。

設置しているのは、写真で見た原田節さん。 オンディスト先輩とオンディーヌちゃんの先生です。 演奏者自らが設置してるけど、そういうものなのかな。 この設置が出来る人は少ないのかもしれません。

「あの本体の上の透明な半円はなんですか?」

「あれは譜面台です」

さすが、オンディスト先輩、即答ありがとうございます。 って、あれ、譜面台なのね。

でも、原田さんは自ら譜面台を設置したものの、譜面なしで弾いていました。

「あそこにあるのはペダルです」

事前講義で出てこなかった部分のフォローも抜かりありません。

でも、待って! ペダルって何に使うの?

「ペダルは左手を鍵盤に使ってしまった場合に、音の強弱を担当します。本来の仕事のような複雑なことはできませんが」

本体の準備が整い、スピーカーの位置などの調整が始まりました。

私たちが舞台のすぐ下を陣取ってずっと見ていたせいもあったのか、周りに人々が続々と増えていきます。

「初めて見るわね」(習ってます、私じゃないけど。)
「単音楽器らしいよ」(知ってます、数時間前からだけど。)

ピアノも運び込まれてきました。 トゥーランガリーラ交響曲は本当に贅沢な楽器編成ですね。

ピアノは下手側(舞台に向かって左)。よく見たことある位置だと思います。 ピアノもチェンバロも共鳴板のためにこちらに置くのがベストとなります。

それに向かい合う形でオンド・マルトノ。 オンドの本体自体はピアノより全然小さいですが、4台のスピーカーを従えると、ピアノと同じくらい幅を利かせてます。

「トゥーランガリーラはピアノとオンドの2台協奏曲のような曲ですからね」

こうして、手際よくセッティングが終わりました。

席に戻り全景が見えると心地のよい緊張感がしてきました。 私が演奏するわけでもないので、緊張する必要はないのですが、本番前の空気感とはそういったもののように思います。

休憩の終わりが告げられ、オーケストラが席に着き、指揮者とピアニストの児玉桃さんとオンディストの原田節さんが入ってきます。

目を引いたのは桃さんの赤い衣装。 コンサートといえば女性は普通はドレスですが、桃さんはインドのダンスを踊るようなパンツルックで現れました。 トゥーランガリーラはサンスクリット語なのでそういうイメージで用意されたのでしょう。 粋な衣装です。

一方、先ほどまでカジュアルな格好でオンドを設定していた原田さんは、黒のステージ衣装に着替えて登場されました。早業!

そして、メシアン作曲、トゥーランガリーラ交響曲が幕を開けました。

全10楽章、約80分に渡ります。

オンド・マルトノの音色と共にあっという間にその世界観に引き込まれます。

電波の音なのに、何処と無く古いような懐かしいような響きもします。

それもそう。オンド・マルトノの音は、パイプオルガンの音が元になっているのです。

音は普通その発生地点からこちらに向かってくるように感じますが、オンド・マルトノは一旦空間を支配して、その空間の広がりと共に音が届くように感じます。

古典と未来の融合、古の世界のようでもあり、宇宙的な広がりまで感じさせます。

テクニカルで優美なピアノの調べ、 七変化するオンド・マルトノの音色、 オーケストラも聞かせてくれます。

80分って長いと思ったけど、気がつくとあっという間でした。

火の鳥が名曲なら、トゥーランガリーラ交響曲は大作です。 それぞれの魅力は全然別の次元にあり、何とも豪勢なコンサートでした。

オンディスト先輩の解説付きで連れて来てくれたオンディーヌちゃんに感謝です。

2回に渡ってお届けしたオンド・マルトノ、いかがでしたか。 少しでもその魅力が伝わっていれば嬉しいです。


thanks for coming by.
written by coquemomo

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